「個人の力」というのは、いかにも漠燃とした表現に過きないと思うニュアンスとして側十分に伝わる言葉であるが、具体化させるのはなかなか難しいものである。
社会全体が大きく変わろうとしているとき、個人の力が試されるといえば、その通りだと思う人はたくさんいるだろう。ただし、世の中に認められる人材を「像」として結ぶにはあらゆる角度から解きほぐさなければ理解は得られない。
そこで、「個人の力」、すなわちキャリアを身につけるための方法論ばかりにとらわれるのではなく、その周辺から話を進めていこうと思う。語学力を身につけてトーィック(TOEIC)を何点取る、あるいはMBAなどを取得することばかりが個人のスキルを高める方法論として語られているが、その前にもっと重要な考え方が存在すると思う。
私は、日本の企業に二九年間勤め、外資系企業の社長を務めたあと、現在経営コンサルタント及びコーチングを行っているが、正直言って、自分のキャリアアップについて、その方法論を明確に語ることは難しいと思っているくらいだ。
ここで言う方法論とは、ハウ・ツーである。こうすればこうなりますよ的に、個人のキャリアがアップするのなら誰もがそれを実践するはずである。英語力を身につければそれでキャリアが身についたことになるのだろうか.答えは、ノーである。
個人の力を身につける本質は、もっと深いところにある。そのきっかけを提示することに、これから挑戦しようと考えている。外資系の合併劇を紹介したのは、ある日突然、こうした出来事に遭遇することが、近い将来、日本の社会でも日常化すると考えたからである。そのとき、組織の動向よりも最終的に個人の考え方が生き残りに欠かせないことは十分に伝わったはずだ。
まるで、ビジネススクールで出された課題を解くように自分たちの会社の行く末を分析し、自分の身の振り方まで冷静に判断する。外資系企業の第一線で働く者は、こうした身の処し方を心得ている。
この力こそ目指すべき「個人の力」である。これを身につけるために何を考え、どんな行動が必要なのかをこれから考えることが、本書の本当の目的である。
まず、テクニックに走らないで、基礎体力をつけよう。ゴルフスイングも、テクニックはいくつもの解説苫を読めば、実践できるか否かにかかわらず、理解することはできる。しかし、理想のスイングをするために必要な足腰の強さ、最低限の体力はトレーニング以外では身につかない。このトレーニングは、「個人の力」を身につけるためにも欠かせない。
そこで、だいぶ以前になるが外資系企業経営者協会(FAMA)とJETROが共催した「グローバル時代のキャリァァップ・セミナー」の内容を紹介するところから始めよう。このセミナーには、私もパネリストの一人として参加した。主に外資系企業で働きたいと考えている若い世代向けに開かれたセミナーだが、内容が非常に分かりやすく、それぞれの分野の第線で働く方の率直な意見が披露された内容になっている。
パネリストは、ガン保険で有名なアメリカンファミリー化命保険ジャパンをゼロから立ち上げた大竹美再会長、ペットフードでトップランクのブランドを築き上げた日本ヒルズ・コルゲートの越村義雄社長、世界でもトップランクの人材コンサルティング会社であるコーンフェリー・ジャパンの橘・フクシマ・咲江副社及と私の四人。
この四人が、外費系企業の求めている人材像から雁川形態や人事、外資系企業で働くメリットについてそれぞれ語るセミナーである。
当時、外資系企業のイメージは、能力主蕊が優先され、業績が伴わなければすぐに解雁されるといったイメージが強く、その払拭がⅡ的で開雌されたセミナーでもあったが、現在、外箇系企業に対してそのような印象は随分と薄れたのではないだろうか。むしろ、外資系企業に就職を希望する人材はかなり増えている。
このセミナーで、私たちが語った求める人材像は、外資系企災を希望する人たち向けに謡ったものだが、現在でも卜分に通川するもので、雌近では、Ⅱ本の企業でも採川堆準と考えられている項目が数多く並んでいる。自分の力で考えられる人材、すなわち個人の力に頼るところが、すべての企業において顕著になりつつある今日、大いに参考となるはずだ。