大学教授の友人から、学生に「アイデンティティーの確立に関する」小論文を課したところ、その内容に、なかば落胆せざるをえなかったと告白されたことがある。
彼は、就職活動を目前に控えた学生たちに、自分自身をみつめ直す機会を提供したつもりだったが、「これは!」と感心させられる論文には遭遇できなかったそうだ。「いったい自分はどんな人物であるのか。自己との対決を経験したことがまったくない。自分が本当に何者であるのかを問い直すこと自体ができないのでしょう」
じっくりと自己と対決する。この言葉を聞いたとき、私は、ハーバードAMP講座を受けたときのことを思い出した。ジョン・P・コッター教授による「リーダーシップおよび組織行動」という講義の中で、まさに、自分と向き合って、自己と対決する時間を与えられたことがあった。
私自身、自室にこもって自分のことだけをじっくり考えたのは初めての体験だった。彼が講義の最終段階で、私たちに与えてくれた貴重な時間の大切さを、友人の話で思い出すことができた。
キャリアメーキングの出発点も、自己を客観視するところから始まる。つまり、アイデンティティーの確立がなければ、何も始まらない。
そこで、私が用いる自己との対決方法を紹介しておこう。
「Who am I?」の実践である。
自分は何者なのかを、じっくりと問い直す作業が必要だ。ひらたく説明すると、次の項目に関して自問自答してほしい。
①自分はどのような人間なのか
②自分の得手不得手に何なのか
③自分は、何をしたいと考えているか
④自分はどこへ行こうとしているのか
⑤自分は、どこへ行きたいと願っているのか
⑥子どものころ、自分はどんな夢を描いていたか
この六項目を順番に考えてみよう。そして、これらの項目を、ノートに書き出してみることが重要である。書き出すことで、想念がより鮮明になって、自分自身がよくみえてくるようになる。
自分の「ありのままの姿」をさらけ出す。他人にみせるものではないから、いいかつこをする必要などどこにもない。自己像を書き出してみると、自分でも思わず笑ってしまうほど幼い。まず、この段階が一ラウンド。そして次のステップに進むことになる。