会社から教わった営業の鉄則は粘りと根性。自動車の販売店では、飛び込み営業が新入社員を鍛える、最善の方法と考えられてきた。売れなくても、何度も断られる中 で精神力を鍛える。
修行僧のような苦行に耐えた者だけに未来があるというのが、猛烈営業マンへと成長するプロセスであった。しかし、これではなかなか社員は育たない。組織というものは、この苦行の中で社員をふるいにかけるだけ。時間を費やしたあとに、社員一人ひとりに残るものは何一つない。
「俺が売らなきゃ誰が売る」といった精神面の強化だけがクローズアップされてきた。しかし、こうした飛ぴ込み営業の中で、確実に成長を遂げる社員が存在する。彼らは、ただ闇雲に飛び込み営業を続けていたわけではない。自分で考える努力を怠らな かったことで、彼らなりの成長を遂げた。
どこに飛び込み営業すれば効果があるのか。この一点に集中して成長した社員がいる。彼の場合、大学進学を目前に控えた子どものいる家庭を丹念に調べた。子どもに甘い家庭が一般化する中で、大学進学と同時に車を買い与える親が多いことを、自分の友人関係の状況から把握していた。こうした家庭を中心に営業をかけてみると、思いのほか好結果が得られた。社員の中で、飛び込み営業で新車を五台も売った社員は 彼一人であった。
計画性もなく、市場分析もせずに営業に回る者に比べれば、彼の作戦は道理にかなってっている。しかし、他の新入社員は、会社から支持されたままに、毎日、飛び込み営業を繰り返していただけだ。自分で考えるというのは、こうしたことをさしている。
オリジナリティーを求めた結果、彼なりの営業方法をみいだした。この社員は、その後も次々に新しい営業のターゲットをみいだすことに成功している。医師の中に車の愛好家が多いことを察知し、彼らのネットワークに食い込む作戦を立てた。その後、一年間で100台のベンツを売り込むことに成功する。もちろん、売上は全社員の中で、トップの成績にまで成長した。
会社から指示されるままに動いた人間とそうでない人間の差は、多くの職場で起こっている。自分の所属する組織の中にもきっと起こっているはずだ。彼らが何に注目し、行動したか。その発想に注目して、自分なりに考えてみよう。キャリアメーキングに成功するには、他人から学ぶ観察力も必要である。どうすれば、自分で考える力がつくのか。目の前にある、仕事への取り組みをいま一度考えてみよう。入社年次が 若いときほど、やり直しはきくものである。