われわれは古き良き時代の企業環境で育った。経済は右肩上がりで々昇給し、年功序列のもとやがて地位も上がっていく。そう楽観していた。終身雇用は安心感をもたらし、OJT(On the Job Training)がうまく機能し、先輩社員が愛情をもって指導してくれたものだ。
「飲みニケーション」という言葉に象徴されるように、タテ、ヨコ方向のコミュニケ-ションも濃厚。新入社員教育が終わると、研修はほとんどおこなわれなかったが、身近に尊敬できる上司を見つけ、まねをすることで自分自身をブラッシュアップしていった。
会社が成長期にあったからチャレンジする機会も多く、失敗を通し多くを学ぶことができた。しかし部長職以上になると、OJTのみによる自己開発はむずかしい。そのため私は米国・ハーバード大学ビジネススクールのAMP(高等経営者講座)で学んだ。つまり以前は、タレント人材が勝手に育っていた時代ではなかっただろうか。1990年代から日本は〃失われた加年″に突入。グローバル化、IT化がすすみ、職場環境やビジネスパーソンの意識も急激に変化した。
最近ある企業の部長職別名ほどと親しく接する機会を得た。話し合ったのは、部内のベクトルをどうまとめあげるか。みな数字、数字で追いまくられ、精神的にもまったく余裕がない様子には驚いた。IT化で組織がフラットになり、部の成績が悪いと、すぐに配置転換の対象になる。かつての課長のように、部長たちが率先垂範型のプレーヤーにならざるをえない。とはいえ会議や報告のための資料作成といった目先の仕事に追われ、部下たちとのコミュニケーションといえば仕事の話題のみ。いまどきの若い人たちの考え方になじめず、どう対応していいのか分からないとうい声も多い。部をどのように引っ張っていくのか、部下がワクワクするような中長期を見据えたビジョンを考えたことがない。与えるのは数値目標だけだ。
日本人は愚直に目標達成に向けて努力し、成果をのこす。しかし成果主義の導入により、職場はどうしてもギスギスしがち。ストレスが蓄積されてくるのも無理はない。
腹をわって話し合い導き出した結論は「みずからの思いを簡単かつワクワクできるビジョンにまとめ、部下一人ひとりと対話し動機づけを図り、競争戦略を実行する」こと。安易を巽策にな陸》地一道に部下と信頼関係を構築することがカギとなる。
「経営は実行」とよくいわれる。いかに素晴らしい戦略を立てても、実行できなければ意味がない。成果を生むためには適材適所で人材を配置し、戦略を徹底させ行動へ導くことが重要である。基盤となるのは、組織内、顧客とのコミュニケーションだ。寄せてはかえす波のように、やりとりを何度も繰り返すことである。
コミュニケーションの要諦はコーチングにある。コーチングとは「気付かせて、行動を変える」こと。すなわち「魚を与えるのではなく、どうすれば魚が釣れるようになるのか気づきを与える」ことにほかならない。リーダーは部下に的を得た質問を投げかけ、考えさせ、行動に駆りたてて成果を上げさせる。
コミュニケーション能力を高めるには、コーチングスキルを身につけねばならないのだ。米国ではIT化により、ワークシフトが進展しているという。ホワイトカラーの仕事がなくなり、創造的な職種と低賃金の肉体労働に二極化しつつあるらしい。機械に任せるこ
とのできない分野といえば、コーチング、チームづくりといったソフト面だ。人を育成するコーチングスキルは、今後リーダーに求められる重要な資質のひとつになるだろう。