エグゼクテティ・コーチング(以下EC)を受けるのは、部長以上の経営幹部が中心となる。具体的には国内企業の場合、社長自身や後継者、社長候補者たちである。取締役会などのマネジメントチームの活性化や役員昇進時の意識革命、女性リーダーの育成等を目的とする。外資系企業の日本人社長や外国人経営者も多しそして近年ECの要望が増えつつあるのが、中小企業。今回は中小企業におけるECの役割を考えてみたい。
私は中小企業にとくに愛着心をもっている。私の父はある企業の創業者だった。祖父は地方の名士で大地主。人のよい祖父は連帯保証人を引き受けたことで破産状態になり、父は中学を1年で退学せざるをえなかった。″鉄屋″にでっち奉公しつつ、刻苦勉励して25歳で会社をおこし、
売り上げよりも利益を重んじる堅実な企業に育て上げた。そんなわけで、苦労を重ねた父の背中を見て育ってきただけに、中小企業経営の難しさが肌で分かる。
どんな経営者にも自社製品への熱い思い入れがあるが、販路開拓や人材育成、資金繰りに苦労するものだ。日々努力しているうちにある程度の企業に育て上げたが、ふと気付くと70歳をこえていたということがよくある。
仕事に没頭してしたので家族はなしがしる後継者である息子を眺めると、ひいき目で見ても頼りない。
とはいえ心血注いで育てた会社は自分の命そのもの。会社を安易に売りわたすわけにはいかない。従業員もかわいい。分別ある経営者は将来を見すえ、後継者となる息子を留学させるなどして、自分なりの帝王学を施している。
しかし一般的に中小企業にはリーダー育成プログラムがないため、帝王学の総仕上げとしてECを依頼いただくことが多い。
グローバル化やIT化がすすみ、従来のビジネスモデルが通用しなくなりつつあるいま、後継者の意識や行動様式に変革をもたらすECは、頼りがいのある存在となる。
もう一つのケースは、後継者が順調に取り仕切るようになり、ひと息ついたタイミングだ。
「この先会社をどのように成長させていくか」「経営方針はこれでいいのか」等々、いろいろ自問自答したくなる時期といえよう。
前者のケースでは、私はおもに三つのことを念頭におきクライアントに接している。
つまり
①元気一杯で口を出したい先代社長と心理的な葛藤を起こさないこと
②先代社長の番頭格社員をうまく使いこなすこと
③まず自社の現状に精通することである。
はじめの1年間は「経営とは何か」を肌で感じ、会社組織、従業員、顧客を熟知することをコーチする。
みずからの個性を出すのはその後でいい。外資系企業にスカウトされた経営者は、就任直後の100日間で部下の信頼を勝ちとることに専念する。そのコーチング手法と本質的に同じことだ。
いっぽう後者のケースは、解決すべき課題がより多岐にわたってくる。ECは後継者のいわば家庭教師や熱烈なサポーターであることが求められる。最後にある中堅商社2代目社長のECを受けたあとのコメントを紹介したい。
「もっとも変わったのは、私の意識です。以前は経営者として、ただがむしゃらに動き回っていただけでしたが、ECを半年間受け、自分自身の将来の望みや会社の現状と目標、着手すべき優先事項が鮮明になりました。また社員がおこなうべきことがクリアになり、日々の活動の中身も変わってきました。この半年間のおかげでビジネスに遡進するだけの
自分から脱皮することができました」
経営者は自分自身を見つめ、磨くことが肝心である。自分の〃器″の大きさ次第で会社は輝きを増していくものなのだ。