私は25年間にわたるビジネスマン生活の中で、数々の経営の修羅場を体験し「会社はトップ次第でいかようにも変わる」ということを確信するようになった。とくに中小企業の場合、会社が輝くのも、衰退していくのも、まさに社長次第である。リーダーを特徴づける行動には主に次の5点がある。
①夢とビジョンを指し示す
②競争戦略を策定する
③周囲の人びとを巻きこむ
④実行しかつ成果をあげる
⑤自己を律する
人は誰しも完壁ではない。どんなリーダーにも欠けている点はあるものだ。そのことに気付いてもらい、リーダーたちが主体的に変革するのをサポートするのが、エグゼクティブ・コーチ(EC)の役割である。
ある海外企業日本法人の例を挙げよう。
かつて社長をつとめていた人物は元コンサルタントだった。理論ばかりが先立ち、業績が振るわず更迭となる。そこで抜擢されたのが、もっとも優秀といわれていた営業部長。だが営業ひと筋だったため、トップとしての訓練をまったく受けてこなかった。
社長として2年間努力したものの、成果が上がらない。営業マンとして天才的といえる才能をもつ社長は、営業マンをみていると歯がゆくて仕方がなし“部下の意見をきくまえに、こうしろ、ああしろと高圧的に命令し、ときには仕事を奪ってしまう。
これでは部下たちはついてこないだろう。
煙たい存在とうつるだけだ。その後依頼を受け、私がECを担当するようになったというわけである。
みずからを見つめる大切さ
この社長は元来、竹を割ったような明るい性格なのだが、虫の居どころが悪いと、自己中心的で倣慢と受け取られるきらいがあった。
③の周囲の人びとを巻きこむ能力に欠けると考えたのである。そこでまず、自分自身の性格と人間性を徹底的に理解してもらうことから着手した。360度評価、エニアグラムによる性格分析などをおこない、職場でどのような人間性が表れているのかを丹念に分析したのだ。
これらにより、自分の本性が分かるとともに、部下の性格の多様性にも気づき、受容できるようになってきた。そして好き嫌いを度外視し、部下の意見に耳を傾けると、社内のいたるところで対話がうまれ、社員たちが主体的に動き出したのである。
また経営者としての専門知識を体系的に学んだことがないというコンプレックスを抱いていたため、経営書を読むように勧めてみた。
案の定、猛烈な勢いで読みすすめ、書かれていた理論をたちまち吸収してしまった。だが理論と実践は別ものである。明確な戦略を策定しても実践されなければ意味がない。
つづいて理論を実践するコツをコーチしたのはいうまでもない。
部下が動かないのは自分に原因があることに、社長はやっと納得したようだった。その後、明確なビジョンのもと社員は自分の役割を認識し、業績が急激に伸びていった。
部下の意見をきき、ときには褒め励まし、認めることができるようになり、社内の雰囲気は一変した。本気で努力すれば、自分のリーダーシップ・スタイルは変えられる。経営者はまず自分のいたらない点に目を向け、それから前に進むべきだ。社長が変革すれば社員は確実に変わり、会社が変わるのである。